シドとバドがビルスキールニルの一室に入り、皇闘士ラグーナダーインのグンターと対峙して2,3分ほどが経過した頃。

彼らもまた、高らかに鳴り響く喇叭の音を耳にした。

「ふふ。長く続いていたアスガルドの大いなる虚偽と欺瞞。これが終わりの始まりだ!」

グンターが嬉々とした表情で言う。

「―――どういうことだ」

冷めた表情でグンターを見据えていたシドが問う。




虹の橋がかかる、天空のオーディーンの居城・ヴァルホルが描かれた壁画のある広間で対峙する、ベネトナーシュのミーメと光神ヘイムダル。

「あなた方は、なぜアスガルドを滅ぼしたいのか」

しばしの間、無言で光神を見据えていたミーメが口を開いた。

「少し前も告げたことだが……滅びは万物の定め、神の与える必然というだけのことだよ。竪琴の戦士よ」

そう答えたヘイムダルは、その美貌に優しい微笑を浮かべている。

「ではそろそろ始めようか。そなたは神闘士の中でも強者のようだね。私を楽しませてくれたまえ」

ヘイムダルが右手を顔の前に上げ、指を鳴らした。

ミーメとヘイムダルの中間に、大きな影が浮かび上がる。

影が拳を前方に構えた。

「タイタニック・ハーキュリーズ!」

叫びと共に、巨大な光弾が放たれる。



影の姿は、大蛇を模したフェクダの神闘衣をまとったトールと化していた。

目を見張りつつ、ミーメは咄嗟に伏せ光弾を避ける。

通り過ぎて行った巨大な圧力が、神闘衣を通して皮膚や肉にビリビリと響いていく。

背後にあった大型の扉が砕け散る轟音。

「ふぅむ。最大の拳をこうもあっさりと避けられるとは。これはガンマ星の神闘士が不利かな?」

光神はにっこりと、うれし気な笑みを浮かべた。

「……!」

身を起こし瞬時に立ち上がり、ミーメはヘイムダルを睨みつける。

「次は懐かしいものを見せてあげよう」

ヘイムダルが再び指を鳴らす。

現れた影を認め、ミーメは愕然となった。

その耳を、甲高い喇叭の音が貫いていく。





塔のような大剣三本が聳え立っている広間。

巨大な剣の刃が、猛烈な速度でハーゲンとアルベリッヒの頭上を襲う。

咄嗟に避ける二人、砕け散る床。

「Das zweite heilige Schwert」

二人から距離を置いた広間の奥に立つ戦神テュールが、再び手を翳した。

戦火グンロギ

先ほどのものとは別の剣がその手元に浮かび上がり、

剣ノ世スカルモルド

厳かな声と共に、またも巨大な剣が正面から二人に突っ込んできた。

戦神目掛けて疾走し、上空に飛び上がったハーゲンは、

「グレート・アーデント・プレッシャー!」

炎の技を戦神へ放つ。

(……よし!)

その様子を見たアルベリッヒは精神集中する。

彼の技・本来は人間を内部に封じ込めるためのアメジストを創り出す、"アメジスト・シールド"。

紫水晶の封印を意味するが、今回は"水晶の盾"を作る。

ただし瞬時に出来上がるわけではないので、時間稼ぎが必要だ。

戦神テュールはハーゲンの放った炎を腕の一振りで払った。

戦斧ノ世スケッギョルド

最初の技の名と共に、巨大剣が横から薙ぎ払うように着地したハーゲンを襲う。

何とかかわし、再度炎の攻撃を仕掛けようとするハーゲンの耳に届く喇叭の音。

「あれは……! 遂に始まったか」

アルベリッヒは喇叭の音がとどろいた方向を見つつ呟く。





ギャラルホルンを吹き鳴らした光神ヘイムダルは、吹き口から唇を離す。

その手の中の喇叭ルーズルは、みるみるうちにフロルリジが手にしていた角杯ドリンクホーンの形へ戻る。

いつの間にか。

光神の隣に、戦神テュールが立っていた。

一言も発さず、巌のように立つ冷たい小宇宙のみを発する姿。

その手には一振りの剣が握られており、

彼は剣を鞘から抜き放った。

聖剣バルムングによく似た剣身。

それが光を放つ間もなく、戦神は剣を高々と掲げ、

船首に歩み寄ると前方へ投擲した。



ヒルダの視界から刹那に姿を消した剣。

遠くに見える北極海の向こうで一瞬光が走り、

巨大な氷がメリメリと裂け、大いなる闇がその間から溢れ出る。

不気味な何者かの咆哮にも似た唸りが周囲を圧し、大いなる闇を中心に北極海は渦巻いた。

北極海と冥界を繋ぐ航路・ブレサネルグが戦神テュールの剣・リディル=レギンレイヴによってこじ開けられ、

やがて、死の軍船ナグルファルがその姿を現す。


そう認識する間もなく。

ヒルダは身を締め上げる紐が、独りでに締め付けを強めたのを知った。

同時に体から力が抜け、意識が薄れ始める。

まるで紐に吸い取られていくように。

「ナグルファルがシンプリ・スンブルの起こす潮流に乗り、此処までやって来た時がそなたの最期」

角杯を手にしながら微笑みを浮かべるヘイムダル。

「フロルリジ様が直々にそなたを血ノ鷲に処される。

かつてはオーディーンの地上代行者であった身。ふさわしく毅然として、死に赴く準備をしなさい」

その言葉にもはや答える術も持たぬヒルダを眺めつつ、

「まあ、見苦しい様を示されてもフロルリジ様に対し失礼に当たるからね。グレイプニルは今そなたの小宇宙を少しずつ吸収しているが、

血ノ鷲を受けるまで死んではいけないよ?」

とても優しい表情で、光神は言った。

小宇宙を失いつつあるヒルダに背を向け、オーディーンの随神二柱はその場を立ち去る。

 




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